「新事業開拓委員会」の中で開発テーマとして上げた「農作業用動力付作業車」の開発実績をまとめました。

様々な理由から開発中止となってしまいましたが、本件の開発の中で開発の進め方や技術面で様々なことを学ぶことができました。取材中に新たに開発テーマにつながるヒントも得ることができたので、本件で学んだことを活かして新たなテーマに取り組んでいきます。

開発しようと思い立った理由

弊社の所在地である山梨県は、特産品として桃やぶどう、さくらんぼなどの果樹栽培が盛んです。その中でぶどう農家の方が中腰で上を見上げながら作業している様子を見て、

「座ったまま作業や移動ができれば楽なのではないか」

と考え、本件の開発は始まりました。

開発当初の構想

ぶどう農家にターゲットを絞り開発を進めることにしました。より需要のありそうな露地栽培の作物全般をカバーできる汎用的な設計にした方が良いのではないかとも考えましたが、下手に汎用設計にすることにより既存製品との差別化が難しくなることを懸念し、まずはぶどうに特化し、座ったまま移動が可能で座面の昇降機能がついたものを開発してみようということになりました。

開発における問題点

開発を進めていくに当たり数多くの問題にぶつかりました。一番の問題点は、ぶどう畑毎に棚の高さ、足場の状況が異なることでした。棚の高さを調べたところ低い畑では1.7m程度、高い畑だと3m程度と幅広く、すべてのぶどう畑に対応することは難しいことがわかりました。また、山間部で栽培を行っているぶどう農家さんの所へ行き、取材をさせていただいたのですが、歩いてみるとかなり傾斜がきつく、土は滑りやすいうえに靴の底に張り付いてしまうような粘り気のあるものでした。すでに平地での使用を想定し設計を始めてしまっていたため、斜面を登る力も足りず、タイヤも現状のままだと滑ってしまうと考えられました。

また、すでに販売されている類似品と比べ、どうしても価格が高くなってしまうことも大きな問題となりました。

開発中止の経緯

上記の問題点に加え、ブレーキや転倒防止などの安全対策で悩んでいる中で、ある農家さんから、ぶどうの栽培作業の中で、最も大変な作業の一つである「袋掛け」や「摘粒作業」を楽にしてほしい、という意見をいただきました。袋掛け、摘粒作業ともに1房ずつ行わなければならない大変な作業で、この作業がもっと楽に行えれば、大幅な時間短縮、行えるのではないかと考えました。

社内にて検討し、農作業車の開発を一旦中止し、「袋掛け機」と「自動摘粒装置」の検討および開発を進めていくこととなりました。

開発から学んだこと

今回、開発中止となってしまったことの原因として、開発前の聞き込みが足りなかったことがあげられます。聞き込みを行った母数が少なかったことと、弊社周辺のぶどう畑でしか聞き込みを行わずに開発を進めてしまったために構想の練り直しを余儀なくされました。「これがあったら便利だろう。」という半ば思い込みで開発を進めてしまったために、お客様(農家の方)が本当に欲しいものを聞き出すことができませんでした。開発前の市場調査や、実際に使用している方のもとへ足を運び、使用状況や使用感といった実際に作業をしている方しかわからない情報を聞くことが大事だと痛感しました。

また、技術面では通常の業務ではあまりなじみのない、モーターや歯車の設計などにチャレンジすることができ、非常に良い経験になりました。今後の開発の中で生かしていきたいと思います。